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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(オ)11号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙上告理由書と題する書面記載のとおりである。これに対し上告人は末綴の通り答弁書を提出した。

上告理由第三点に対する判断。

原判決は所論甲第二号証だけではなくて、これと原判決の挙示する他の書証及び人証を併せて、被上告人から上告人に対してなされた本件係争不動産の譲渡には原判示のような停止条件が附いていたこと、しかるに上告人はこの不動産譲渡の前提条件を履行しなかつたことを認定したのであつて、原判決の挙示する証拠を併せれば原判示のような認定をなすこともできる。右の不動産譲渡契約が上告人の帰郷を条件としてなされたからといつて、これにより上告人の個人的自由の拘束が余儀なくされるとはいえないから、この条件を不法なものという論旨は理由がない。尚、上告人は、この条件について、憲法違反を云為するけれども、原判決の確定するところによれば、本件条件附譲戻契約は、昭和一七年二月中に締結せられたのであるが、上告人は、右契約成立の当時より引き続いて東京に居住し、寅吉の生存中ついに本件家屋に帰住せず、結局、昭和二年八月寅吉の死亡に至るまでに右条件を履行しなかつたというのであり、しかも原判決認定の右条件の趣旨に従えば、この条件は寅吉の生存中に履行せられることを必至とするのであるから、結局右条件は昭和二〇年八月寅吉の死亡と共に不成就に確定したものと云わなければならない。すなわち本件条件は、憲法施行以前に既に不成就に確定したのであるからその条件の内容が憲法に違反するかどうかの問題を生ずる余地はないのである。而して論旨援用の甲第二号証中に原判示のような条件の記載がないとの点は、同号証と他の証拠とを併せて原判示の条件の存在を認定することを妨げるものでないことは勿論であり、その他の論旨は原判示に副わない上告人独自の見解に立脚し又は原審で主張しなかつた事実を基礎にして原判決を非難するもので、これまた採用に値いしない。

上告理由第四点に対する判断。

原審に於ける証人中江小治郎の再訊問は、上告人がこれによつて証明しようとした事実又は重要な争点に関連する事実についての唯一の証拠方法ではないのであるから、その証人訊問申出での採否は原審の裁量権に属することであり、原審が本件で右証人の再訊問をしなかつたことを攻撃する本論旨も理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上のように、本件上告理由はいずれも採用し得ないから、民事訴訟法第三九六条、第三八四条に則り本件上告を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担については、同法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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